オリムピックナショナル | 風が読む!戦略的なティーショットの選び方

ゴルフ場とは、単なる芝生の広場ではありません。
それは、土地の歴史、設計者の思想、そして自然条件との壮大な折り合いの産物です。

特に、埼玉県に広がるオリムピックナショナルゴルフクラブは、その哲学的な深さにおいて、関東屈指の存在だと私は考えています。

このコースの具体的な評判や口コミを知りたい方は、こちらのオリムピックナショナルのレビュー記事も参考にしてください

この記事は、あなたがこの45ホールズの舞台に立つ前に、脳内でコースを“歩く”ための設計図です。

なぜなら、このコースは二人の世界的巨匠、ダイ・デザインとファジオ・デザインの思想が競演する、極めて戦略的なフィールドだからです。

私がゴルフ雑誌の編集者として、そして地理・造園を学んだ者として、このコースを特集した際に見抜いた「地形の物語」と「風の囁き」を、あなたにすべてお伝えします。

この記事を読み終える頃には、あなたは単にボールを打つゴルファーではなく、コースの意図を読み解く“共犯者”となっているでしょう。

さあ、あなたの次の一打を、戦略的にデザインしましょう。

オリムピックナショナルが持つ「二つの顔」:設計思想の対比

オリムピックナショナルゴルフクラブの攻略を語る上で、まず理解すべきは、EASTとWEST、それぞれのコースに込められた設計者の魂です。
この二つのコースは、同じ丘陵地にありながら、まるで異なる二つの時代を映し出しています。

EASTコース:ダイ・デザインが描く「オールドスコティッシュ」の伝統

EASTコースは、世界的名手ダイ・デザイン社の作品です。

その根底にあるのは、イングランドの丘を彷彿とさせる「オールドスコティッシュ」の伝統的な優美さです。

このコースの特徴は、マウンドを多用した美しい造形と、時を重ねた貫禄の重厚感です。

  • 戦略の核心
    • ティーショットは、視覚的な美しさに惑わされず、マウンドの裏側に隠されたハザード(特にバンカー)の位置を正確に把握することが重要です。
    • フェアウェイの起伏がボールの転がりを予測不能にするため、「どこに落とすか」よりも「どこで止めるか」という緻密なコントロールが求められます。

WESTコース:ファジオ・デザインによる「モダンクラシック」の戦略美

一方、WESTコースは、ジム・ファジオ氏が監修したモダンクラシックスタイルです。

こちらは、先進的でダイナミックなレイアウトが特徴で、現代的な戦略性が色濃く反映されています。

  • 戦略の核心
    • 広大な敷地に戦略的に配置されたホールが多く、特にグリーン周りの複雑なアンジュレーション(起伏)がプレーヤーを悩ませます。
    • ティーショットでは、飛距離よりも「セカンドショットの打ちやすいポジション」を確保することが最優先となります。
    • 特にカメリアコースのように、右サイドがOBゾーンとなっているホールでは、スライサーはリスクを避けて左ラフを狙うという、割り切った戦略が求められます。

この二つの思想の対比を頭に入れておくだけで、あなたのティーショットのクラブ選択は大きく変わるはずです。

丘陵地の地形が「風を呼ぶ」:ティーショットの戦略的基盤

オリムピックナショナルゴルフクラブが位置する丘陵地は、単にアップダウンがあるというだけでなく、「風の通り道」を形成しています。
私がかつて、コースの高低差を曖昧に表現して批判を受けた失敗談から学んだのは、地形を数値と感覚の両方で捉える重要性です。

標高差と傾斜がもたらす「見えないハザード」

丘陵地のコースでは、ティーグラウンドとフェアウェイ、グリーンとの間に大きな標高差があるホールが少なくありません。

この高低差は、単に距離の計算を難しくするだけでなく、風向きと風速を劇的に変化させる要因となります。

  • 打ち上げの場合
    • ティーショットが頂点に達する手前で、風が上空で巻き込み、予想外にボールが押し戻されることがあります。
    • 見た目以上に距離をロスするため、クラブを一つ上げる勇気が必要です。
  • 打ち下ろしの場合
    • ボールが落下するにつれて、風が勢いを増し、グリーンの手前で急激に吹き抜けることがあります。
    • 特に、グリーン周りが開けているホールでは、風の影響を過小評価すると、グリーンオーバーや、手前のガードバンカーに捕まるリスクが高まります。

打ち下ろしホールでの「風の読み方」

オリムピックナショナルには、眺めの良い打ち下ろしのホールがいくつか存在します。
これらのホールで最も重要なのは、「風はどこから吹いているか」ではなく、「ボールがどこで風の影響を最も受けるか」を予測することです。

  1. ティーグラウンドの旗:風の方向と強さ(現在の状況)
  2. フェアウェイの木々の揺れ:風の方向と強さ(中間地点の状況)
  3. グリーンの旗:風の方向と強さ(着弾地点の状況)

この三点の情報を瞬時に統合し、特に「打ち下ろしの途中で風が吹き抜けやすい」という地形の特性を考慮に入れることが、「風が読む」戦略の第一歩となります。

風が読む!戦略的ティーショットの選び方(実践編)

ここからは、具体的なコースの攻略ヒントを、私の経験とリサーチ結果に基づいて提案します。
特に風の影響を受けやすいホールや、設計者の意図が色濃く出ているホールに焦点を当てます。

【WEST】風を警戒すべき象徴的なホール

WESTコースは、ダイナミックなレイアウトゆえに、風の影響がスコアに直結します。

WEST・アザレアコース Hole.6(Par3)でのクラブ選択

このホールは、眺めの良い打ち下ろしのショートホールです。
しかし、攻略法には「グリーン上は風が吹き抜けやすくクラブ選択がカギ」と明記されています。

  • 戦略:打ち下ろしで距離が短く見えますが、グリーン上で風が吹き抜けるため、番手を下げすぎるとショートします。
  • ティーショットの選び方
    • 風がアゲンスト(向かい風)の場合、「ワンクラブ大きめ」を選び、グリーンセンターを狙うのが鉄則です。
    • フォロー(追い風)の場合でも、吹き抜けによる急激な落下を考慮し、手前から攻める意識を持つべきです。
    • 池などのハザードに注意しつつ、安全策としてグリーンセンターを狙うのが最善です。

WEST・アザレアコース Hole.8(Par4)での方向性

見晴らしの良い左ドッグレッグのミドルホールで、「ティショットは風向きに注意」が必要です。

  • 戦略:左ドッグレッグで、風が左から吹いている場合(左からのアゲンスト)、曲がり角をショートカットしようとすると、風に流されてOBや林に捕まるリスクが高まります。
  • ティーショットの選び方
    • 風向きを最優先し、IPポイント(目標地点)を狙います。
    • 左ドッグレッグを意識しすぎず、フェアウェイ右サイドの安全なエリアに運ぶことを優先します。セカンドショットが多少長くても、フェアウェイから打つことがこのホールの鍵です。

【EAST】マウンドとバンカーを避ける「安全な攻め」

EASTコースは、オールドスコティッシュの伝統に基づき、マウンドとバンカーが戦略的に配置されています。

EAST・オーキッドコース Hole.4(Par4)での飛距離マネジメント

緩やかな打ち下ろしのミドルホールで、正面に見えるバンカーの右側が狙い目とされています。

  • 戦略:ティーショットの飛距離によって、刻むか、攻めるかを明確に分ける必要があります。正面のバンカーまで白ティーから約250ヤードという情報があります。
  • ティーショットの選び方
    • 飛ばし屋:バンカーを越えるか、あるいはバンカーの右側の狭いエリアに正確に打ち込む必要があります。リスクを避けるなら、あえて3WやUTで刻み、セカンドの距離を残す選択も重要です。
    • アベレージゴルファー:正面バンカーの手前、フェアウェイの広い部分に確実に運び、セカンドでタイトな左右のエリアを攻略するマネジメントが賢明です。

ティーショットの選択を「物語」にする:クラブ選びの哲学

私の執筆の動機は、ゴルフ場が持つ「土地の歴史・設計の思想」を伝えることです。
オリムピックナショナルでは、ティーショットのクラブ選択一つにも、その哲学が凝縮されています。

単に飛距離を求めるのではなく、「設計者がこのホールで何をさせたいのか」という問いに答えるクラブを選ぶことが、真の攻略法です。

状況選択すべきクラブの哲学
WESTのタイトなホール「正確性」を担保するクラブ(3W、UT、ロングアイアン)を選び、右OBのリスクを徹底排除する。
EASTのオールドスコティッシュ「着弾点」をコントロールするクラブ(低弾道の球を打てるクラブ)を選び、マウンドによる不規則な転がりを最小限に抑える。
風の強い打ち下ろし「番手の余裕」を持たせるクラブを選び、風に負けないキャリーと、グリーン上での確実なランディングを確保する。

起伏を官能し、芝目の囁きを聞く。

それが、このオリムピックナショナルという舞台で、あなたが最高のパフォーマンスを発揮するための心構えです。

結論:次の一打を共に想像しよう

オリムピックナショナルゴルフクラブは、ダイ・デザインとファジオ・デザインという二人の巨匠の哲学が交差する、知的な挑戦状です。
単なるパワーゲームではなく、地形を読み、風を読み、設計者の意図を読み解く、「風が読む」戦略的思考が求められます。

あなたがこの記事で得た知識は、以下の3点に集約されます。

  1. 設計思想の理解:EAST(伝統的な優美さ)とWEST(モダンな戦略美)の違いを認識し、ホールごとに攻め方を変えること。
  2. 地形と風の関連付け:丘陵地特有の標高差が風速と風向きを変化させることを予測し、特に打ち下ろしでのクラブ選択に細心の注意を払うこと。
  3. リスクマネジメント:WESTのカメリアコースのように、右OBが多いホールでは、あえて左ラフを狙うなど、安全なポジションを確保する勇気を持つこと。

このコースを歩くことは、単なるスポーツではなく、壮大なランドスケープを巡る旅です。
あなたの手の中にあるクラブは、その物語を紡ぐためのペンなのです。

さあ、次のティーショットを共に想像しよう。
あなたが選ぶ一打が、このコースの新たな物語を創り出します。

最終更新日 2025年10月10日 by llabos